子宮内膜異形増殖症だって。

筋腫分娩から始まった闘病の全記録。

死ぬかも知れない恐怖と3週間の始まり。

『きっと大丈夫!!』
『考えすぎは良くないよ』
『病は気から!!』

みんなはそんな風に励ましてはくれる。

でもそれを“無責任だな”と思ってしまう自分を
どうすることも出来ずに数日を過ごした。

TVを観ていても芸能人が亡くなったりするニュースは
決して他人事とは思えなかった。

異常な程に過敏になる。

ただそれも1週間を越えたあたりで
疲れてきたのか麻痺してきたのか
わたしも少し前向きになれて
もし“癌”で“死ぬかも知れない”なら
いろいろとやることがあるなって思いはじめた。

“終活”

すぐに死ぬとかではなく
“いずれ”に備えておいた方がいい。
いつかは必ず訪れるのだから。

そんな現実を意識できる今だから
やらなきゃいけないと思った。

何をはじめたらいいのかを具体的にノートに書き出す。

生命保険の証書の内容の確認。
部屋の掃除。
アルバムの整理。
ぬいぐるみ達の祈祷をする寺院の検索。
昔から書いている日記の処分方法。
通帳・印鑑類の保管場所。
葬儀の事。
家族や彼や友達への手紙。
感謝の言葉とお別れの言葉。
棺に入れて欲しい物。

書き出しながら
なぜか涙が止まらなかった。

癌‥‥‥の可能性。

次回の予約票を貰って会計を済ませ車に乗る。

誰から連絡すればいいんだ?
取り敢えず‥‥彼か‥?
家族か?

決まらない。

‥決まらない、と言うよりは
考えなきゃいけない事と
やらなきゃいけない事が
ごちゃごちゃしていて整理がつかなかった。

落ち着こう‼

まだ“癌”と決まった訳じゃない。

結果の出る3週間後の通院までが
やたら長く感じる。

車に乗り込んだまま
わたしは暫く脱け殻になっていた。

忍び寄る影。

再び診察室に入る。

『お疲れさまでしたー。
ちょっと時間がかかっちゃってすみませんでした。』

わたしの相槌を聞いてすぐに先生が話出す。

『外に出て来てるものを少し取りました。
ただ‥ちょっとね‥‥‥
ただの筋腫にしては柔らかい気がするんです。
取りにくかったから時間かかっちゃったんだけど。』

『‥‥‥‥はい。』
精一杯の返事を絞り出した。

『今の状況だとまだ筋腫と断定出来ないんです。
ただの筋腫ならもっと固いんだけど‥。
もしかしたらただの筋腫かも知れないし
ポリープかも知れないし‥悪いものかも知れない。』

心臓がきゅっっとなった。

『悪いもの‥‥‥って。』
『うん‥』
『癌って事ですか‥?』
『まだはっきりしないけど可能性は捨てられないです。』

言葉を出せずにいるわたしをよそに先生は話続ける。

『取り敢えず組織の検査をして結果を見てからです。』



中待合室の長椅子に座って
看護師が予約票を持ってくるのを待つ。



ボイスレコーダーを握りしめたまま
からだの震えを必死に抑える。

癌。

癌‥?

時限爆弾。

『ぅーーーん‥‥。』
『‥‥‥?』

先生、何なの?
気にしながら言葉を待つ。

『なんかうまく取れないんだよねー。
もーちょっと頑張ってね!!』
『はぃ。』

お願いだから早く取って。
息苦しくなる。

しばらくカーテンの向こうを想像しながら
天井を見上げていた。



『はーーい、取りましたよー。
ちょっと出血あるのでタンポンで止血しますね。
夜になったら引き抜いて下さい。』

そう言いながらタンポンを詰め始めると
一つでは駄目らしく3つ程詰めたと先生が言って
椅子が戻っていく。

『ゆっくり椅子から立ち上がってお着替えしてください』
看護師に言われて着替える。



診察室に戻ったわたしは
先生の口から衝撃的な単語を聞く事になった。

処置室の沈黙。

この日の先生は女医さん。

めっちゃ若くて綺麗。

入院の時にも何度か朝の回診で話したり
診察もしてもらった。

先生は『お待たせしました!』と笑顔。

わたしは作り笑顔は出来なかったけど
『よろしくお願いします。』と返した。

『紹介状見させてもらいました。
また筋腫分娩してるんだねー。
診察して出て来てるものを少し取って
組織の検査をしましょう。』

『あ、はい‥。』

いつものように
中待合室に戻り処置室に呼ばれるのを待つ。

言いたい事。
聞きたい事。

沢山あるのに何も言えず。

説明の時に絶対聞かなきゃ!!



看護師がわたしの受付番号を呼ぶ。

小さく返事をして処置室に入ると
名前と生年月日を確認して
あの椅子に座る準備。

『あの‥出血してるんですけど‥』
『大丈夫ですよー』

大量ではないが
まぁまぁ出血していたので
気にしながら椅子に座った。

椅子が動き出して先生が入ってくる。
『では内診からしますねー』
『はい』

『次、器具入りますよー力を抜いててくださーい』
『はい』

『‥‥‥‥‥‥‥‥‥。』
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥。』

沈黙。

紹介状を突きつける。

それから数日後。

渡された紹介状を持って
わたしは婦人科の待合室にいた。

この日もすごい人で
中待合室では座る場所がすぐに見当たらなかった。

出血は落ち着いていたけど
完璧に止まっている訳ではなかったので心配しながらも
ここは病院。

何かがあれば対処されるだけ。
嫌だけどやっぱり安心感はある。

聞きたい事は沢山あって。

言われた事も忘れないように
いつもボイスレコーダーに録音している。

1時間程待って診察室に呼ばれた。

ボイスレコーダーをセット。

診察室に入って
椅子に座って先生を見据えた。

見落とし‥なんじゃないの?

あまり役に立たないかもしれないけどと
一応止血剤を処方された。

‥止血剤ってはじめてもらったけど
なんだろうこの安心感。

家に戻っても
何も手につかない数時間を過ごす。

夜になって
やっとあちこちに連絡をしはじめる。

そろって『見落としぢゃないのか?』と。

そーだよね。
あたしだってそう思うもん‥。



この時のあたしは
こんな事しか考えられなかった。



でも
これはただの“再発”ではなかった。