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子宮内膜異形増殖症だって。

筋腫分娩から始まった闘病の全記録。

彼の想い。

賑やかな夕食が終わって
部屋で荷物の整理を彼に手伝ってもらう。

スマホを見るとさっチンからLINEが来ていた。

『着信に気付かなかったなぁー』と言うと
『自分じゃわからないだけで疲れてたんだよ』と彼。

一通り荷物の出し入れも終わって
彼がコンビニで買ってきたものを出し始めた。

『あ、パイの実ー‼』
たけのこの里もあるよw』
『すごーい‼テンション上がった‼』
『一気に食べるとデブまっしぐらだからな』
『‥わかった』

好きなものを買ってきてくれてたんだ。
嬉しい。

『いろいろ、ありがとね』
『ん?何、改まってw』

今回は本当にいろいろ迷惑も心配もかけちゃって
無理したはずだから。

こんな時は、ちゃんと気持ちを伝えなきゃって思った。

『正直、俺ね‥
嘛璃が、もしかしたら死んじゃうんじゃないかと思った』
『うん』
『アパート入って倒れてる嘛璃を抱き上げた時も
血が半端なく出ててさー。
どこから出血してんのかも分かんないまま、顔を見れば
真っ白ってか真っ青ってか血の気が全くないのが分かって』

彼がせきをきったように話始める。
わたしは黙って聞いていた。

『よく行動出来たなって思うんだよ。
パニックになりそうな状況だったはずなのに
俺がちゃんとしなくちゃ嘛璃が死ぬと思った』
『あたし、Kが到着するまではと思って頑張ったんだよ』
『どうして何も話してくれなかったの』
『‥』
『自覚症状、あったはずだって先生も言ってたぞ』
『うん』
『ただ単に病院嫌いだから?』
『それもある』
『他には』
『きっと何か悪いんだって分かってたから
怖かったのもあるし‥仕事とかのタイミングとか‥』
『馬鹿なの?』
『‥』

何も言えなかった。
反論もない。

『どんだけ心配したか分かる?』
『ごめん』
『今、やっと安心したからか反動ですごいきつい事
言ってるかも知れないけどさ』
『‥』
『俺、家族みたいな人に死なれたかも知れない訳』
『‼』
『病院に着いて、嘛璃がストレッチャーに乗せられて中に入ってさ
ひとりで駐車場に車停めて中に行こうとして
急に怖くなって震えが止まらなくなって変な歩き方でさ』
『‥』
『死んじゃったらどうしようって』
『‥』
『ERの外でやっと電話しなきゃってお母さんに電話して』
『うん』
『‥何でも言ってよ』
『うん』
『ちゃんと一緒に考えるからさぁ』

泣いた。
涙が止まらなくて。

お菓子の箱を持ったまま彼がわたしの横に座る。

背中をさする手が看護師サンみたいに暖かくて安心したら
ますます涙が出る。

『ごめん』
『うん』

泣き止むまで彼が隣にいてくれた。

まぐろの赤身で鉄分補給。

実家に到着。
久しぶりに自分の部屋を覗く。

わたしがちょこちょこ持ち込んだ荷物も移動してあって
部屋の掃除もしてくれたみたい。
ベットには布団もセットしてあって
ママが準備してくれていたのが分かる。

車の荷物を部屋に運んでくれたママが
『身体、きつくない?少し休んでなさい。
もう少ししたらママ、買い物に行ってくるから』

お言葉に甘えて休む事にした。
起きたら荷物の整理をしよう。



スマホの着信にも気付かずに爆睡していたわたしを
パパが起こしに来てくれた。

『よく寝れたか?Kも着いて下で待ってるよ』

あら。
どれだけ寝たのか分からないけど目覚めがいい。
パパと一緒に階段を降りてリビングに行くと
彼が景色に馴染んでいる。

『仕事終わってから何回か電話したんだけどー』
『そうなの?気付かなかったw』

『起きてすぐご飯食べれるの?』とママに聞かれたけど
もちろん食べれます‼

椅子に座って目の前のお寿司に釘付け。
病院のご飯しか見てないからとても豪華‼

『まぐろの赤身、多めに握ってもらったから食べなさい』
『まぐろの赤身?』
ママが言った事を聞き直したわたしに
『鉄分でしょ、鉄分‼』と彼が突っ込む。
『あーあ‼なるほど‼』

本人が一番しっかりしていない。

そうだ。
今は血を増やさなきゃ。

普通に食事と鉄剤で血を増やすには3ヶ月位はかかるらしい。
当分の間は血を増やす努力が必要。

大好きなまぐろで血が増えるならお安い御用だ。

久しぶりの賑やかな夕ご飯。

さっチンは今頃どうしてるだろ。

退院の日。

5日目の朝を迎える。

回診後、いつものように診察室に向かい
ガーゼを取ってもらった。

詰め込んだ物がなくなったのがちょっと嬉しい。

ママが迎えに来てくれて看護師サンから通院の予約日や
退院後気を付ける事とかいろいろと説明を受ける。

その後、薬剤師サンが薬を持ってきてくれたりと
忙しく時間が過ぎた。

さっチンは『じゃぁまたね‼』と言って病室を出ていく。
『うん、またね』と手を振った。

緊急入院の日、わたしの服は血だらけで
ERで切られてしまったりしたので
ママが持ってきてくれた服に着替える。

ベット周りの物をバックに詰め込んで
数日お世話になった病室を出た。

帰り際、とても良くしてくれた看護師サン達にもお礼を言って
ママに車椅子を押してもらって
玄関前に停車していた車に乗り込んだ。

荷物を車に置いてママが『会計してくるから待ってて』と
中に戻って行った。

外は7月の下旬らしく、とても暑かった。
病室にいると快適過ぎて忘れがちだけど。

エアコンの温度を少し上げてママを待つ。

入院費、払ってもらっちゃったなぁ。
後でちゃんと返さなきゃ‼

退院日にならなきゃ診断書の依頼が出来ないらしいので
ママに頼んで会計の後で申請もしてきてもらった。

車に戻って来たママが
『さて、帰りますか‼アパート寄らなくて平気?』
『うん、大丈夫と思う』
『じゃぁ帰ろ、パパが楽しみにしてたし』

見慣れた景色を助手席から眺めながら実家へ向かう。
途中、彼から着信。
『もしもし』
『もう病院出た?』
『もう実家に向かってるよー』
『了解。夕方行くね』

うん。
なんか“普通”だ。
普通の日常。

これからはちゃんと病院にも行く。
通院もちゃんとする。
自分の身体を大切にする。

こんなに大事になるなんて思ってもなかった。
とても迷惑をかけちゃった。
心配もしただろう。

自分だけの事じゃないんだ。

病院に行くタイミングなんて沢山あったのに‥。
後悔ばかり。

『今日は何食べたい?』
『んー‥。何かなぁ』
『お寿司取ろうかってパパが言ってたよ』
『お寿司か。いいね』
『Kクン何時に来るって?』
『仕事終わってからだから早くても7時位にはなるでしょ』
『じゃぁそれに合わせてつくってもらっちゃう‼
帰ったら電話しなきゃ』

ママは楽しそう。
楽しそうなママを見てわたしもほっとする。

実家まではもう少し。

この時のわたしは
筋腫分娩に関わる病が全て回復すると信じていた。

最後の『おやすみ』。

夕方。
彼が見舞いに来てくれた。
『良かったね、明日の退院は俺も来るよ』
『え?大丈夫だよ‼ママ達が9時頃来るって言ってたし』
『それは聞いたけど』
『それにそのまま実家に拉致だし』
『だったら仕事終わったら実家行くよ』
『無理しなくていーよw』
『無理するとこだろ、今w』
『仕事、忙しいでしょーよ』
『いや、行く』

嬉しいけど‥あんまり迷惑をかけたくなかった。
だって救急で入院してから大変だったと思うし
仕事も大変な時期だって分かってる。

本当にこの人は‥。
男前だなぁw

『じゃぁママに言っておく。ご飯食べないで来てよ?
じゃないとママに出された物が入らなくて困るからさ』
『もちろん‼』

うちのママは彼の食べっぷりに惚れていて。
なんでも美味しそうに平らげてくれる彼が大好きらしい。

よって、お腹を空かせて来ないと
食べさせたくて準備した物が余ってしまうのですw

彼もそれに付き合ってくれる。
いい人です。



夜ご飯が終わって彼も帰宅したので
談話室でさっチンとTVを見てた。

『明日の何時に退院?』
『たぶん10時とかかなぁ』
『じゃぁ見送れないなー』
『大丈夫‼治療に専念しなさいよ』
『そーだよねw』

それ以上、言葉が見つからなかった。
彼女は、あとどのくらい入院するんだろう。

『通院の日、わかったら教えてよ‼』
『うん、連絡する』
『その時、無理じゃなければ来てみて』
『もちろんw』

そろそろ消灯の時間が近い。
ちょっと前まで談話室にちらほらいた患者も面会の人も
いつの間にかわたし達以外、誰もいなくなっていた。

夜の病院って淋しいんだよね。

仕方なく病室に戻ってベットに横になる。

『消灯でーす』と言うと明かりが消えて
最後の『おやすみ』をふたりで交わした。

待ちに待ったあの瞬間。

ラウンジでだいぶ長い時間を過ごして
またゆっくりと病室に戻りはじめた。

その時‼

待ちに待った前触れとも言える症状が微かに現れた。

『ねぇ‼なんかさー?お腹ちょっと痛くなってきた』
『え⁉誰か呼んでくるか?』
『いや、大丈夫‼あれだと思う。数日ぶりのう○こ‼』
『あー‼なんだーwビックリした』
『まだかもだけど‥出産出来るかもー』
『急に冷たいの飲んだからかな』
『そーなのかな』

ふたりとも便秘の薬を飲んでたけど
全く出てくる様子もなく
身体を動かさないから出にくくなってるんだろうと
看護師サンに励まされてたけど
そのご恩に応えられる可能性が出て来た。

ここは何がなんでも期待に応えたいところ‼

けど、さっチンは気配もしないらしい。

ふたりで出産したいところだけど
どうやらわたしの方が先に産み落とせそう。

病室に戻ると、いよいよお腹の痛みが増してきた。

『あー‥早く産まれてーw』
『だよなぁw』

きっと病室にいる他の2人には何の事かわからないだろうw

何度か病室の外にあるトイレに行ってみる。
出そうで出ない。

さすがに病室のトイレで産み落とすのは気が引ける。
何日も出ていない訳だし。

そしてその時が来た。

だけど、どうしても下っ腹に力を入れるのが怖い‼
数分、恐怖心と戦って
それでも何とか無事産み落とす事に成功。
出血はしてなさそうだ。
やっと安心出来たんだけど量的には少なめで。
でも気持ちも楽になったし、恐怖心もだいぶ薄れた気がする。

さっチンにも報告して喜びを分かち合った。
『わたしも早く産みたいよー』と彼女が笑って。

くだらない事でも一緒に笑える彼女がいてくれて
急に始まった入院生活も心強かったし楽しかった。
それも明日の午前中で終わる。

取り敢えず退院後の経過観察の通院の日までは
会えなくなるなぁ。

そんな事をぼーッと考えながらベットに横になった。

癌になんか負けるな。

お昼前にさっチンが戻って来た。
あんまり体調が良くないのか元気がない。

退院の事を言い出せないままお昼ご飯を食べる。

友達からの着信に気付いたわたしは
配膳を下げながら談話室のソファーに座って電話をかけ直す。

ほとんど誰にも言わずに入院生活を送っていたので
仕方なくここ数日の波乱万丈を説明して事後報告。

友達が病院に見舞いに来ると言うので
明日には退院だからと断ると
退院したら家に遊びに行くと言って彼女も納得してくれた。

他言無用と付け加えて電話を切る。
なんとなくTVのワイドショーを見ながらとどまっていると
さっチンも配膳を下げに来て
わたしを見付けると『ここにいたのか‼』と隣に座った。

『今、電話終わってなんとなくワイドショー見てたw』
『なるほどな』
『あ、そー言えば明日退院していいんだって』
『え!そーなんだ。もっとゆっくりしてていいのにw』
『先立つ不幸をお許し下さい』
『仕方ないw許すけど寂しくなるなぁ』
『大丈夫さ。通院もあるし家、めっちゃ近いんだから
見舞いに来るよー』
『うん』

そーだよね。
わたしが先に退院するだろうと分かっていたけど
やっぱりどこか寂しいよね。

さっチンには聞けなかった。

いつまで入院の予定なのか。
今の状況はどうなのか。

話してくれるまで無理に聞き出すのはやめておこう。
これでいいんじゃないかと思う。

『明日、忙しいだろうから退院祝いにドトール行こー』
『前祝い?いーねー‼』
『車椅子にする?』
『大丈夫‼ゆっくり行こ』

病室に戻り滅多に取り出さないまま
金庫に入れっぱなしのお財布を、それぞれ持っていざ出発。

わたしにとっては長丁場だ。
ナースステーションで一応行き先を告げた。

何とか無事に辿り着いてラウンジでくつろぐ。
毎日飲んでるお茶とほうじ茶には飽きてるから
いちいち新鮮。

暫くラウンジで雑談しつつ
さっチンの職場の話に耳を傾けていた。

わたしも彼女も介護関係のある資格を持っている。

わたしはおじと2人で
おばぁチャンの介護を協力しながら手伝っていたが
その大好きなおばぁチャンも数年前に亡くなった。

その時もいろいろな面で知識が役にたったので
資格を取った事はプラスだったと思う。

今現在、わたしはその資格はお飾りのままだが
彼女はそれを武器に仕事をしていて
現場の話を尊敬しっぱなしで聞いていた。

介護の職場は本当に大変だ。
今も昔も。

今だから言えるけど
おばぁチャンの介護に携わっていた時は
身内の介護って本当にしんどいと感じていた。
“自由”が限られるから。

でも赤の他人の介護を楽しくこなせる彼女は
本当にかっこよくて尊敬しちゃう。

そんな彼女もこの病のせいで休職。
復帰するらしいけど
今までみたいに動けるのか心配していた。

でもさ。
ここまで来たら治療に専念してさ?
早く元気になってさ?
仕事もバリバリしてさ?
行きたがってる旅行したりさ?

だから何とか打ち勝って
癌なんか追い出して
これからも一緒に生きて行こう?

あたし、今
本当にそう思ってるんだよ。

カラダの不思議。

4日目。

いつもの時間になって回診。

『出血もないようだし診察次第だけど、どうします?
退院しますか?取り敢えず今は止血が出来てるので
病院では貧血の対策のみだから自宅でも大丈夫ですよ』

やった‼

『はい、退院します‼』
『じゃぁ後で診察させて下さい』

帰れる‼
嬉しい‼

すぐさまママにLINE。
彼にもLINE。

はやる気持ちを押さえて診察室に呼ばれるのを待つ。
看護師サンが迎えに来てくれた。

診察中、先生が
『大丈夫だね。少量の出血は暫くあるだろうけど
退院も大丈夫でしょう。』

ありがとー先生‼
ありがとー看護師サン‼

スキップしたい気持ちだけど酸欠になるからやめとこう。

退院は明日に決まった‼

看護師サンが退院した後の受診予約や注意点なんかを
明日、説明してくれるらしい。

またまたママにLINE。

“おめでとう‼”
“いろいろありがとね”
“明日の9時頃まで行くからね”
“うん‼よろしく”
“今日行こうと思ってたんだけど大丈夫?”
“大丈夫だよ、明日で”

彼からもLINEが戻ってくる。

“良かったね、夕方行くから”
“はーい”



さっチンにも一応報告しなきゃ。
治療に行ってるのか病室に戻った時にはいなかった。

その間、シャワーの順番が来たので
看護師サンの見守り付きで至福のシャワーtimeを満喫。

何だか少しずつだけど体が楽に動くような気がすると
看護師サンに言ったら
『少ない血でも上手に体がそれに合わせて
動けるようになるから大丈夫ですよ。
でも無理は絶対に駄目です』と。

なるほどねー。
身体ってすごいんだ。