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子宮内膜異形増殖症だって。

筋腫分娩から始まった闘病の全記録。

流れ作業の婦人科外来。

多少の出血が続いていたけど
それ以外は何も問題なく実家療養5日目。

退院後はじめての通院の日。

ママに運転してもらって
途中、マカロンが美味しいお店に寄り道した。
さっチンと堪能するために。

その前に取り敢えず診察だ。

予約票を受付機で読み取りして採血室で採血後
婦人科外来へ。

中扉を開けると待合室はごった返していて
ずっと立ってられる体力がなかったわたしは
フラっとした事もあり
途中、看護師サンに言って車椅子を準備してもらった。

『こりゃかかりそうだねw』
電光掲示板の番号と自分の受付番号の紙を見比べる。
『大きい病院って、こーいうとこが嫌なのよねー』
ふたりである程度の覚悟をした。

まず、着いたことをさっチンに伝えよう。
スマホを取り出して“外来なう”と送信。

なかなか既読にならない。
診察かシャワーかなぁ。

ママはちゃっかり持参した本を読みはじめて
わたしもゲームで時間を潰す。

もうすぐ2時間が経過する頃
やっと診察室の入口にわたしの番号が。

『じゃ行こうか‼』
『うん』

車椅子のまま呼ばれた診察室に入った。

『お待たせしてすみません。こんにちは』と先生。
『よろしくお願いします』
『どうでしたか?出血とか大丈夫でした?』
『少しは出てますけど大丈夫だと思います』
『血液検査の結果も少し改善してますから
鉄剤をもう少し出すので飲んでて下さい』
『わかりました!』
『じゃぁ診察させてもらいますので待合室でお待ち下さい』
『はい』

診察室を出て、ママが言った。
『あの先生って何か無愛想だねぇ』
確かに。

なんと言うか‥ぶっきらぼう?
顔を見て話さない。
聞きたい事とか、聞けない感じで。

まぁね‥。
今日の何百人の内のひとりだもんね、わたしは。
流れ作業感、半端ない。

いろいろ考えながら数分。
すぐにあの動く診察台のある部屋に呼ばれた。

おーッ。
久しぶりだなw
もう怖くも何ともないわいと思いながらその椅子に座る。

『あのー‥出血してるんですけど大丈夫ですか?』
『大丈夫ですよー‼』

そうなんだ。
大丈夫ならいいんだけど。

向かいに先生が来た。

『はい、じゃぁ触診します、力を抜いてて下さい』
『はーい』

うん。
慣れたもんだ。

『中、見ますね、機械入りますよー』

痛くはない。
ビクビクしながらも聞き耳をたてる。

『少し傷口からの出血があるけど大丈夫です』
『ありがとうございます』
『では今日はこれで終わりになります』

え?
聞きたい事あったのにー‼

渋々待合室に戻ってママに報告。
『もう普通に動いていいのか聞きたかったのに
診察はもう終わりみたい』
『そうなの?』
『うん』

暫く待つと看護師サンが次回の受診予約を持ってきて
カルテを会計の受付に持ってって下さいと言った。

『あの。わたし、普通に動いてももう大丈夫なんですかね』
『先生は何か言ってましたか?』
『聞きたかったけどタイミングを逃したみたいで‥』
『じゃぁ確認してきますね』

戻って来た看護師サンは
『急激にじゃなければ大丈夫だそうですよ。
体調みながら調整してみて下さい』

いいんだ。

確かに早歩きも息が上がるし階段も疲れるけど
積極的に動いてもいいなら気持ちが楽だ。

今日は問題もなく無事帰れる。
感謝。

癌って、ほんとに憎たらしい。

眠気が覚めたわたしは、さっチンとのLINEを楽しんでいた。

“そー言えば今度の通院っていつになった?”
“んとね5日後だよ‼”
“おー‼そーか。診察終わったら病室これそう?”
“うん‼行くよー”

話が尽きない。

“今日さぁーぐったりしてたんだよね”
“そうだったの?”
“ご飯も食べれなかったー”
“大変だったね”

薬のせいだよね。
放射線なのか抗がん剤なのかは分からないけど‥。
きっとそうなんだ。

相当つらい治療だって事は何となく理解してる。
ご飯も食べれない程だもんね。

わたしの想像なんて簡単に越える辛さもあるだろう。

癌って、ほんとに憎たらしい。

わたしの友達に‥なに寄生してくれちゃってんだよ。



“外来終わるのお昼頃だろーねー”
“うん。絶対そーだと思う”
“楽しみだなぁー”
“そうだね‼”

今日、退院したばかりなのに恋人同士かw

にやにやしながらLINEを楽しんで
わたし達は“おやすみ”を交わした。

彼が帰った後で。

散々泣きじゃくり
あげくのはてに疲れたのか眠くなった。

それを見て彼は
『また来るから今日は寝なよ』と言って帰り支度。

2階の部屋の窓を開けて彼に手を振る。
めっちゃ大きく振り返してきた。
見えてないと思ってるのかな。
しっかり見えてるけどw

車のテールライトが他の光に紛れるのを見ながら
彼の気持ちを知って反省する。

きっと反対の立場なら
わたしはもっと怒ってるかもな。



ベットに座ってスマホを眺めて、さっチンにLINEの返事を返した。
“返事遅くなってごめん‼”

すぐに返事がきた。
“大丈夫だよ!落ち着いたかー?”

まだ寝てないんだね、やっぱり。

“うん、今、彼も帰ったし一人になったよ”
“そーだったんだ‼”
“日中、LINE来てたの気付かなくて爆睡してたよ、ごめん”
“気にしなくてよしw”

あんなに眠かったのに
さっチンとのLINEが楽しくて目が冴えた。

彼の想い。

賑やかな夕食が終わって
部屋で荷物の整理を彼に手伝ってもらう。

スマホを見るとさっチンからLINEが来ていた。

『着信に気付かなかったなぁー』と言うと
『自分じゃわからないだけで疲れてたんだよ』と彼。

一通り荷物の出し入れも終わって
彼がコンビニで買ってきたものを出し始めた。

『あ、パイの実ー‼』
たけのこの里もあるよw』
『すごーい‼テンション上がった‼』
『一気に食べるとデブまっしぐらだからな』
『‥わかった』

好きなものを買ってきてくれてたんだ。
嬉しい。

『いろいろ、ありがとね』
『ん?何、改まってw』

今回は本当にいろいろ迷惑も心配もかけちゃって
無理したはずだから。

こんな時は、ちゃんと気持ちを伝えなきゃって思った。

『正直、俺ね‥
嘛璃が、もしかしたら死んじゃうんじゃないかと思った』
『うん』
『アパート入って倒れてる嘛璃を抱き上げた時も
血が半端なく出ててさー。
どこから出血してんのかも分かんないまま、顔を見れば
真っ白ってか真っ青ってか血の気が全くないのが分かって』

彼がせきをきったように話始める。
わたしは黙って聞いていた。

『よく行動出来たなって思うんだよ。
パニックになりそうな状況だったはずなのに
俺がちゃんとしなくちゃ嘛璃が死ぬと思った』
『あたし、Kが到着するまではと思って頑張ったんだよ』
『どうして何も話してくれなかったの』
『‥』
『自覚症状、あったはずだって先生も言ってたぞ』
『うん』
『ただ単に病院嫌いだから?』
『それもある』
『他には』
『きっと何か悪いんだって分かってたから
怖かったのもあるし‥仕事とかのタイミングとか‥』
『馬鹿なの?』
『‥』

何も言えなかった。
反論もない。

『どんだけ心配したか分かる?』
『ごめん』
『今、やっと安心したからか反動ですごいきつい事
言ってるかも知れないけどさ』
『‥』
『俺、家族みたいな人に死なれたかも知れない訳』
『‼』
『病院に着いて、嘛璃がストレッチャーに乗せられて中に入ってさ
ひとりで駐車場に車停めて中に行こうとして
急に怖くなって震えが止まらなくなって変な歩き方でさ』
『‥』
『死んじゃったらどうしようって』
『‥』
『ERの外でやっと電話しなきゃってお母さんに電話して』
『うん』
『‥何でも言ってよ』
『うん』
『ちゃんと一緒に考えるからさぁ』

泣いた。
涙が止まらなくて。

お菓子の箱を持ったまま彼がわたしの横に座る。

背中をさする手が看護師サンみたいに暖かくて安心したら
ますます涙が出る。

『ごめん』
『うん』

泣き止むまで彼が隣にいてくれた。

まぐろの赤身で鉄分補給。

実家に到着。
久しぶりに自分の部屋を覗く。

わたしがちょこちょこ持ち込んだ荷物も移動してあって
部屋の掃除もしてくれたみたい。
ベットには布団もセットしてあって
ママが準備してくれていたのが分かる。

車の荷物を部屋に運んでくれたママが
『身体、きつくない?少し休んでなさい。
もう少ししたらママ、買い物に行ってくるから』

お言葉に甘えて休む事にした。
起きたら荷物の整理をしよう。



スマホの着信にも気付かずに爆睡していたわたしを
パパが起こしに来てくれた。

『よく寝れたか?Kも着いて下で待ってるよ』

あら。
どれだけ寝たのか分からないけど目覚めがいい。
パパと一緒に階段を降りてリビングに行くと
彼が景色に馴染んでいる。

『仕事終わってから何回か電話したんだけどー』
『そうなの?気付かなかったw』

『起きてすぐご飯食べれるの?』とママに聞かれたけど
もちろん食べれます‼

椅子に座って目の前のお寿司に釘付け。
病院のご飯しか見てないからとても豪華‼

『まぐろの赤身、多めに握ってもらったから食べなさい』
『まぐろの赤身?』
ママが言った事を聞き直したわたしに
『鉄分でしょ、鉄分‼』と彼が突っ込む。
『あーあ‼なるほど‼』

本人が一番しっかりしていない。

そうだ。
今は血を増やさなきゃ。

普通に食事と鉄剤で血を増やすには3ヶ月位はかかるらしい。
当分の間は血を増やす努力が必要。

大好きなまぐろで血が増えるならお安い御用だ。

久しぶりの賑やかな夕ご飯。

さっチンは今頃どうしてるだろ。

退院の日。

5日目の朝を迎える。

回診後、いつものように診察室に向かい
ガーゼを取ってもらった。

詰め込んだ物がなくなったのがちょっと嬉しい。

ママが迎えに来てくれて看護師サンから通院の予約日や
退院後気を付ける事とかいろいろと説明を受ける。

その後、薬剤師サンが薬を持ってきてくれたりと
忙しく時間が過ぎた。

さっチンは『じゃぁまたね‼』と言って病室を出ていく。
『うん、またね』と手を振った。

緊急入院の日、わたしの服は血だらけで
ERで切られてしまったりしたので
ママが持ってきてくれた服に着替える。

ベット周りの物をバックに詰め込んで
数日お世話になった病室を出た。

帰り際、とても良くしてくれた看護師サン達にもお礼を言って
ママに車椅子を押してもらって
玄関前に停車していた車に乗り込んだ。

荷物を車に置いてママが『会計してくるから待ってて』と
中に戻って行った。

外は7月の下旬らしく、とても暑かった。
病室にいると快適過ぎて忘れがちだけど。

エアコンの温度を少し上げてママを待つ。

入院費、払ってもらっちゃったなぁ。
後でちゃんと返さなきゃ‼

退院日にならなきゃ診断書の依頼が出来ないらしいので
ママに頼んで会計の後で申請もしてきてもらった。

車に戻って来たママが
『さて、帰りますか‼アパート寄らなくて平気?』
『うん、大丈夫と思う』
『じゃぁ帰ろ、パパが楽しみにしてたし』

見慣れた景色を助手席から眺めながら実家へ向かう。
途中、彼から着信。
『もしもし』
『もう病院出た?』
『もう実家に向かってるよー』
『了解。夕方行くね』

うん。
なんか“普通”だ。
普通の日常。

これからはちゃんと病院にも行く。
通院もちゃんとする。
自分の身体を大切にする。

こんなに大事になるなんて思ってもなかった。
とても迷惑をかけちゃった。
心配もしただろう。

自分だけの事じゃないんだ。

病院に行くタイミングなんて沢山あったのに‥。
後悔ばかり。

『今日は何食べたい?』
『んー‥。何かなぁ』
『お寿司取ろうかってパパが言ってたよ』
『お寿司か。いいね』
『Kクン何時に来るって?』
『仕事終わってからだから早くても7時位にはなるでしょ』
『じゃぁそれに合わせてつくってもらっちゃう‼
帰ったら電話しなきゃ』

ママは楽しそう。
楽しそうなママを見てわたしもほっとする。

実家まではもう少し。

この時のわたしは
筋腫分娩に関わる病が全て回復すると信じていた。

最後の『おやすみ』。

夕方。
彼が見舞いに来てくれた。
『良かったね、明日の退院は俺も来るよ』
『え?大丈夫だよ‼ママ達が9時頃来るって言ってたし』
『それは聞いたけど』
『それにそのまま実家に拉致だし』
『だったら仕事終わったら実家行くよ』
『無理しなくていーよw』
『無理するとこだろ、今w』
『仕事、忙しいでしょーよ』
『いや、行く』

嬉しいけど‥あんまり迷惑をかけたくなかった。
だって救急で入院してから大変だったと思うし
仕事も大変な時期だって分かってる。

本当にこの人は‥。
男前だなぁw

『じゃぁママに言っておく。ご飯食べないで来てよ?
じゃないとママに出された物が入らなくて困るからさ』
『もちろん‼』

うちのママは彼の食べっぷりに惚れていて。
なんでも美味しそうに平らげてくれる彼が大好きらしい。

よって、お腹を空かせて来ないと
食べさせたくて準備した物が余ってしまうのですw

彼もそれに付き合ってくれる。
いい人です。



夜ご飯が終わって彼も帰宅したので
談話室でさっチンとTVを見てた。

『明日の何時に退院?』
『たぶん10時とかかなぁ』
『じゃぁ見送れないなー』
『大丈夫‼治療に専念しなさいよ』
『そーだよねw』

それ以上、言葉が見つからなかった。
彼女は、あとどのくらい入院するんだろう。

『通院の日、わかったら教えてよ‼』
『うん、連絡する』
『その時、無理じゃなければ来てみて』
『もちろんw』

そろそろ消灯の時間が近い。
ちょっと前まで談話室にちらほらいた患者も面会の人も
いつの間にかわたし達以外、誰もいなくなっていた。

夜の病院って淋しいんだよね。

仕方なく病室に戻ってベットに横になる。

『消灯でーす』と言うと明かりが消えて
最後の『おやすみ』をふたりで交わした。