子宮内膜異形増殖症だって。

筋腫分娩から始まった闘病の全記録。

約束のスイーツパラダイス。

わたしが退院して数ヶ月が経ち、さっチンも無事退院した。

その間わたしはと言うと、仕事に復帰。
10月の中旬に宅建士の資格試験があるので
時間のロスもあったから
さすがに過去問に取り組んだけど
全国模試はギリギリ合格ラインを保てたのに
本試では合格ラインに4点届かず撃沈。

あと1年。
また勉強だ。
切り替えよう‼



そして9月のある日。

わたしとさっチンは駅前のビル中にある
スイーツパラダイスに繰り出した。

これは、わたしとさっチンが入院してた時に
約束した事のひとつ。

“退院したらスイーツを食べに行こう‼”

とは言え、わたしはまだ長時間歩くのはきついので
時々休んだりしながらも楽しめた。

帰り際、ふたりで駅ナカの本屋にふらっと入った。

『生きてるうちに旅行に行きたいなぁー』
『⁉』

生きてるうちに‥。

やっぱり‥そうなのかな。
“余命”とか‥。

怖くなった。

『京都にも行きたいしー、北海道にも行きたい‼』
『行った事ないのか?』
『うん、結婚して子供育ててたら行けなかったー』
『そーかー』
『嘛璃チャンが羨ましいよ、ひとりで旅行とか
あちこち行ったりしてさぁー』
『友達と行くこともあるケドひとりだと思い立ったらすぐでも行けるからね。さっチンも行ってみたら?』
『あたしは無理‼方向音痴だ‼』
『そりゃ駄目だなw』

そんな事を話ながらガイドブックを眺めてる。

『今、一番行きたいのはどこなの?』
さっチンに聞いてみた。

『うーん‥北海道で蟹かなぁー』
『‥行くか?連れてってあげるよ』
『ほんと⁉行く‼行くー‼』

すごく嬉しそうな彼女の笑顔は
わたしの心にじんわりと暖かい気持ちをくれた。

平穏な日々と副作用。

アパートに戻ってからは
出来るだけひとりで家事も掃除も買い物も
無理しない程度にこなすようにした。

体もだいぶ動けるようになったし調子がいい。

何より出血がなくなったってのが大きい。

少し前までは毎日のように出血していたから。
多い日も少ない日も毎日が生理みたいで。

それでも今もまだ心配。

また出てきたら‥と思う。

だからやっぱり毎日ナプキンをしていた。
日が経って心から安心できるまではお守りのように。



相変わらず、休職中で暇なわたしは
動けるのをいいことに、さっチンに会いに病院へ行っていた。

彼女は週に何度か体調が悪くなる日がある。
治療の副作用だから仕方がないんだけど
その治療がある日は彼女から連絡がくるから
わたしもその日は病院に行く事はしない。

そんな普通の毎日。

ここからスタート。

通院の次の日。

わたしは誕生日を迎えた。
念願通り退院して。

久しぶりに実家での誕生日。

ここからまた1ヶ月後に病院の予約が入っているが
体調は良くなっている。

ただ、まだ少し出血がある。
こんなものか。



誕生日を実家で過ごしてから1週間後
わたしは彼に迎えに来てもらってアパートに戻った。

久しぶりに戻った部屋を少し掃除して
荷物の整理をした。

約3週間、部屋に戻らなかっただけなのに
どうしてだろう‥この穏やかな気持ち。

落ち着く。

ここから、また新しい自分のスタート。

早速、彼と買い物に近所のスーパーに繰り出す。
ゆっくりペースで動いてるつもりだけど
やっぱり車に戻る頃にはちょっと疲れる。

車に乗り込んで道路向かいの病院を眺めた。

さっチンは今頃、夕御飯かなぁー。

そろそろ病院に顔出そうか。

きっと、意味があるんだって思う。

診察も終わって、さっチンに会いに5階の病棟に向かう。

『ゆっくり話てていいよ、ママもロビーでお茶してるから
帰る気になったら連絡ちょうだい』
『ありがと』

ナースステーションの前を通ると看護師サン達が近寄ってきた。

『あらー‼誰かと思ったらーw』
『お久しぶりですw今日は診察で来ました』
『そーなの‼調子良さそうで安心しましたー』
『いろいろとありがとうございました』
『もしかして会いに来たの?』
『そーなんですw』

ママも挨拶をすると看護師サンと何か話ていたので
わたしはさっチンの病室にひとりで向かった。

病室は満員御礼のようだけど
さっチンのベットの場所は変わらない。

『さっチン?来たよー』
『おー‼』

カーテンを開けるとご飯の途中だったさっチンが
元気そうに笑っていた。

『やっぱりこの時間になるよねーw』
『うん。混んでたよ』

車椅子を降りて病室備え付けのベンチに向かい合って座る。

『顔色少し良くなったんじゃない?』
『でしょ?貧血の数値も少し良くなったって先生言ってた』
『良かったね』
『さっチンはどう?』
『今日は大丈夫‼』

マカロンをバックから出して差し出すと
スイーツ好きな彼女が喜んでくれた。

一緒に食べながら沢山話した。
ここ数日の事。
体調の事。

彼女の様子も気になっていたから
元気に笑ってくれた時は本当に安心した。

彼女は、先生からの提案で大学病院で
ここでは出来ない治療をしてみる事にしたらしい。
一時外出で大学病院に行って
治療が終わればまたこの病院に戻るといった具合に。

その治療をこの間はじめて受けに行ったのだそう。

オペ出来ない位に大きくなった癌に
直接何らかの治療が出来るようだけど
それが激痛らしくて、とても凹んだと言って笑う。

それでご飯が食べられなかった日があったのか‥。
想像しながらも彼女の話を聞いていた。

また、その治療に行くらしく気が重いよと言いながらも
消して逃げ出さない彼女。

やっぱり強いなぁー君は。

わたしが同じ立場なら、どうだろう‥。



『実家療養もそろそろ引き上げようかと思って』
『帰って来たら病院まで近くなるね
毎日遊びに来てくれていいよw』

さすがに毎日は無理だけど
戻ってくれば確かにいつでも来れる。

それで彼女も心強いなら、出来るだけ顔を出そう。

『ママ、待ってるから今日は帰るよ』
1時間はあっという間。
『そっか‼今日はありがとね』
『うん!楽しかったしまた来るから』

さっチンはコンビニに行くついでにロビーまで送ると
わたしの車椅子を押してくれた。

ロビーでママが本を読みながら待っていてくれて
わたし達を見付けると手を振った。

『お久しぶりです』とさっチンがママに声をかけると
『嘛璃と話して疲れたんじゃない?w』とママが笑う。
『全然ーw長い時間すいませんでした』
『とんでもない‼これからも仲良くしてあげてね』
『こちらこそです』
『退院したら、嘛璃と一緒に遊びに来てね』
『絶対行きます‼』
3人で話すのも楽しい。
彼女は母親を少し前に亡くしたらしい。

不安も沢山あるだろう。

人はひとりじゃ生きていけないって言うけど
寄り添ってくれる人が必要な時にはそこにいて
失ったものを補ったりしながら
支え合っていければ何とかなるんじゃないのかな。

それが完璧じゃなくても。

大袈裟じゃなく自分に出来る事で。

もし、10年振りに偶然会ったわたし達が
その運命にあるのなら、これからも寄り添って行こう。

きっと、意味があるんだって思う。

流れ作業の婦人科外来。

多少の出血が続いていたけど
それ以外は何も問題なく実家療養5日目。

退院後はじめての通院の日。

ママに運転してもらって
途中、マカロンが美味しいお店に寄り道した。
さっチンと堪能するために。

その前に取り敢えず診察だ。

予約票を受付機で読み取りして採血室で採血後
婦人科外来へ。

中扉を開けると待合室はごった返していて
ずっと立ってられる体力がなかったわたしは
フラっとした事もあり
途中、看護師サンに言って車椅子を準備してもらった。

『こりゃかかりそうだねw』
電光掲示板の番号と自分の受付番号の紙を見比べる。
『大きい病院って、こーいうとこが嫌なのよねー』
ふたりである程度の覚悟をした。

まず、着いたことをさっチンに伝えよう。
スマホを取り出して“外来なう”と送信。

なかなか既読にならない。
診察かシャワーかなぁ。

ママはちゃっかり持参した本を読みはじめて
わたしもゲームで時間を潰す。

もうすぐ2時間が経過する頃
やっと診察室の入口にわたしの番号が。

『じゃ行こうか‼』
『うん』

車椅子のまま呼ばれた診察室に入った。

『お待たせしてすみません。こんにちは』と先生。
『よろしくお願いします』
『どうでしたか?出血とか大丈夫でした?』
『少しは出てますけど大丈夫だと思います』
『血液検査の結果も少し改善してますから
鉄剤をもう少し出すので飲んでて下さい』
『わかりました!』
『じゃぁ診察させてもらいますので待合室でお待ち下さい』
『はい』

診察室を出て、ママが言った。
『あの先生って何か無愛想だねぇ』
確かに。

なんと言うか‥ぶっきらぼう?
顔を見て話さない。
聞きたい事とか、聞けない感じで。

まぁね‥。
今日の何百人の内のひとりだもんね、わたしは。
流れ作業感、半端ない。

いろいろ考えながら数分。
すぐにあの動く診察台のある部屋に呼ばれた。

おーッ。
久しぶりだなw
もう怖くも何ともないわいと思いながらその椅子に座る。

『あのー‥出血してるんですけど大丈夫ですか?』
『大丈夫ですよー‼』

そうなんだ。
大丈夫ならいいんだけど。

向かいに先生が来た。

『はい、じゃぁ触診します、力を抜いてて下さい』
『はーい』

うん。
慣れたもんだ。

『中、見ますね、機械入りますよー』

痛くはない。
ビクビクしながらも聞き耳をたてる。

『少し傷口からの出血があるけど大丈夫です』
『ありがとうございます』
『では今日はこれで終わりになります』

え?
聞きたい事あったのにー‼

渋々待合室に戻ってママに報告。
『もう普通に動いていいのか聞きたかったのに
診察はもう終わりみたい』
『そうなの?』
『うん』

暫く待つと看護師サンが次回の受診予約を持ってきて
カルテを会計の受付に持ってって下さいと言った。

『あの。わたし、普通に動いてももう大丈夫なんですかね』
『先生は何か言ってましたか?』
『聞きたかったけどタイミングを逃したみたいで‥』
『じゃぁ確認してきますね』

戻って来た看護師サンは
『急激にじゃなければ大丈夫だそうですよ。
体調みながら調整してみて下さい』

いいんだ。

確かに早歩きも息が上がるし階段も疲れるけど
積極的に動いてもいいなら気持ちが楽だ。

今日は問題もなく無事帰れる。
感謝。

癌って、ほんとに憎たらしい。

眠気が覚めたわたしは、さっチンとのLINEを楽しんでいた。

“そー言えば今度の通院っていつになった?”
“んとね5日後だよ‼”
“おー‼そーか。診察終わったら病室これそう?”
“うん‼行くよー”

話が尽きない。

“今日さぁーぐったりしてたんだよね”
“そうだったの?”
“ご飯も食べれなかったー”
“大変だったね”

薬のせいだよね。
放射線なのか抗がん剤なのかは分からないけど‥。
きっとそうなんだ。

相当つらい治療だって事は何となく理解してる。
ご飯も食べれない程だもんね。

わたしの想像なんて簡単に越える辛さもあるだろう。

癌って、ほんとに憎たらしい。

わたしの友達に‥なに寄生してくれちゃってんだよ。



“外来終わるのお昼頃だろーねー”
“うん。絶対そーだと思う”
“楽しみだなぁー”
“そうだね‼”

今日、退院したばかりなのに恋人同士かw

にやにやしながらLINEを楽しんで
わたし達は“おやすみ”を交わした。

彼が帰った後で。

散々泣きじゃくり
あげくのはてに疲れたのか眠くなった。

それを見て彼は
『また来るから今日は寝なよ』と言って帰り支度。

2階の部屋の窓を開けて彼に手を振る。
めっちゃ大きく振り返してきた。
見えてないと思ってるのかな。
しっかり見えてるけどw

車のテールライトが他の光に紛れるのを見ながら
彼の気持ちを知って反省する。

きっと反対の立場なら
わたしはもっと怒ってるかもな。



ベットに座ってスマホを眺めて、さっチンにLINEの返事を返した。
“返事遅くなってごめん‼”

すぐに返事がきた。
“大丈夫だよ!落ち着いたかー?”

まだ寝てないんだね、やっぱり。

“うん、今、彼も帰ったし一人になったよ”
“そーだったんだ‼”
“日中、LINE来てたの気付かなくて爆睡してたよ、ごめん”
“気にしなくてよしw”

あんなに眠かったのに
さっチンとのLINEが楽しくて目が冴えた。