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子宮内膜異形増殖症だって。

筋腫分娩から始まった闘病の全記録。

彼女の夢、北海道へ。

BIGBANGのコンサートも終わり
その約1週間後、わたし達が北海道へ向かう日がきた。

駅前から出るフェリー行きのバスに乗る為に
わたし達はバスターミナルで待ち合わせた。

お互いを見付けると大きく手を振りあった。

『いよいよだねー』
『すごい楽しみだー』

手荷物は少なくしたつもりなのに
やっぱりスーツケースの中はそれなりの量になる。

バスに乗り込んでほっと一息。

やっぱり立ちっぱなしも疲れる。
余裕をもたなきゃやっぱり駄目だね。



フェリーターミナルが見えてきて
彼女は『あ‼あれに乗るのー?』と窓からフェリーを指差した。

『そーだよー』
本当に楽しみにしてたんだなぁーって分かる。



わたしはフェリーによくひとりで乗船する。

本当は寝台特急が好きで
寝台特急に乗る為だけに北海道によく行っていた。

寝台特急もどんどん本数が減って
廃線になったりして仕方なくフェリーで北海道に行ってみた。

これがまたはまってしまった。

フェリーに乗る度、よく爆弾低気圧に襲われるけど
それはそれでスリリングな体験が出来る。

やめられなくなった。

はじめてのフェリー旅の時
せっかくならいい部屋で行こうと
大概がひとりでも利用可能な特等室で往復していたけど
今回は帰りのみ特等室が取れなくて1等室で予約をしている。

しかもフェリーではじめてのふたり旅。

今回はガイドの役割もあるけど
無理しないでのんびり楽しむつもり。

運命のふたり。

北海道の日程を決める時、なぜか駄目な日がかぶった。

ふたりとも11月の週末にお互い東京に行く予定だ。

『同じ日に東京か?あたしはコンサートなんだー』
『え?あたしも‥』
『まじで⁉』
『因みにBIGBANGなんだけどね、あたしは』
『え⁉一緒ーーーッ‼』

何これー‼
ふたりで顔を見合わせて思わず大爆笑。

『病室で運命だと思ったけど‥まさかねーw』
『こりゃいよいよ本物だなw』

北海道に行く前に東京でも一緒らしい。

偶然なのか必然なのか。



コンサートの日を避けて11月末、わたし達は北海道へ出発する。

お互いが休職なだけに3泊4日の旅。



楽しみがいっぱい増えていく。

旅の計画。

沢山あるガイドブックの中から1冊を選んで購入。

旅行代理店で何種類かのパンフレットを貰って
駅前のベンチに座ってガイドブックとパンフレットを眺める。

さっチンは終始楽しそう。

やりたいことも見たいところも沢山ある。

だけどわたし達はこう見えて病み上がり。
わたしは貧血と当分と上手に付き合わないといけないし
彼女も全体的に体力がない。
体調にも波があるだろうし。

なのでふたりが旅をするのに決めたこと。

◎無理をしない。具合が悪い時は遠慮なく伝える。
◎ゆとりを持つ為に目的地は1日に2ヶ所位に絞る。
◎美味しいものを食べて楽しい思い出を沢山作る。

彼女が乗りたかったと言ったフェリーで北海道。
わたしはよく、ひとり旅でも行く北海道だけど
今回はふたり旅。

フォローし合いながら、きっと楽しい旅になる。

旅慣れない彼女からの一任で
宿やフェリー等の選定に取りかかる。

旅って計画を立ててる時がいちばん楽しい。

約束のスイーツパラダイス。

わたしが退院して数ヶ月が経ち、さっチンも無事退院した。

その間わたしはと言うと、仕事に復帰。
10月の中旬に宅建士の資格試験があるので
時間のロスもあったから
さすがに過去問に取り組んだけど
全国模試はギリギリ合格ラインを保てたのに
本試では合格ラインに4点届かず撃沈。

あと1年。
また勉強だ。
切り替えよう‼



そして9月のある日。

わたしとさっチンは駅前のビル中にある
スイーツパラダイスに繰り出した。

これは、わたしとさっチンが入院してた時に
約束した事のひとつ。

“退院したらスイーツを食べに行こう‼”

とは言え、わたしはまだ長時間歩くのはきついので
時々休んだりしながらも楽しめた。

帰り際、ふたりで駅ナカの本屋にふらっと入った。

『生きてるうちに旅行に行きたいなぁー』
『⁉』

生きてるうちに‥。

やっぱり‥そうなのかな。
“余命”とか‥。

怖くなった。

『京都にも行きたいしー、北海道にも行きたい‼』
『行った事ないのか?』
『うん、結婚して子供育ててたら行けなかったー』
『そーかー』
『嘛璃チャンが羨ましいよ、ひとりで旅行とか
あちこち行ったりしてさぁー』
『友達と行くこともあるケドひとりだと思い立ったらすぐでも行けるからね。さっチンも行ってみたら?』
『あたしは無理‼方向音痴だ‼』
『そりゃ駄目だなw』

そんな事を話ながらガイドブックを眺めてる。

『今、一番行きたいのはどこなの?』
さっチンに聞いてみた。

『うーん‥北海道で蟹かなぁー』
『‥行くか?連れてってあげるよ』
『ほんと⁉行く‼行くー‼』

すごく嬉しそうな彼女の笑顔は
わたしの心にじんわりと暖かい気持ちをくれた。

平穏な日々と副作用。

アパートに戻ってからは
出来るだけひとりで家事も掃除も買い物も
無理しない程度にこなすようにした。

体もだいぶ動けるようになったし調子がいい。

何より出血がなくなったってのが大きい。

少し前までは毎日のように出血していたから。
多い日も少ない日も毎日が生理みたいで。

それでも今もまだ心配。

また出てきたら‥と思う。

だからやっぱり毎日ナプキンをしていた。
日が経って心から安心できるまではお守りのように。



相変わらず、休職中で暇なわたしは
動けるのをいいことに、さっチンに会いに病院へ行っていた。

彼女は週に何度か体調が悪くなる日がある。
治療の副作用だから仕方がないんだけど
その治療がある日は彼女から連絡がくるから
わたしもその日は病院に行く事はしない。

そんな普通の毎日。

ここからスタート。

通院の次の日。

わたしは誕生日を迎えた。
念願通り退院して。

久しぶりに実家での誕生日。

ここからまた1ヶ月後に病院の予約が入っているが
体調は良くなっている。

ただ、まだ少し出血がある。
こんなものか。



誕生日を実家で過ごしてから1週間後
わたしは彼に迎えに来てもらってアパートに戻った。

久しぶりに戻った部屋を少し掃除して
荷物の整理をした。

約3週間、部屋に戻らなかっただけなのに
どうしてだろう‥この穏やかな気持ち。

落ち着く。

ここから、また新しい自分のスタート。

早速、彼と買い物に近所のスーパーに繰り出す。
ゆっくりペースで動いてるつもりだけど
やっぱり車に戻る頃にはちょっと疲れる。

車に乗り込んで道路向かいの病院を眺めた。

さっチンは今頃、夕御飯かなぁー。

そろそろ病院に顔出そうか。

きっと、意味があるんだって思う。

診察も終わって、さっチンに会いに5階の病棟に向かう。

『ゆっくり話てていいよ、ママもロビーでお茶してるから
帰る気になったら連絡ちょうだい』
『ありがと』

ナースステーションの前を通ると看護師サン達が近寄ってきた。

『あらー‼誰かと思ったらーw』
『お久しぶりですw今日は診察で来ました』
『そーなの‼調子良さそうで安心しましたー』
『いろいろとありがとうございました』
『もしかして会いに来たの?』
『そーなんですw』

ママも挨拶をすると看護師サンと何か話ていたので
わたしはさっチンの病室にひとりで向かった。

病室は満員御礼のようだけど
さっチンのベットの場所は変わらない。

『さっチン?来たよー』
『おー‼』

カーテンを開けるとご飯の途中だったさっチンが
元気そうに笑っていた。

『やっぱりこの時間になるよねーw』
『うん。混んでたよ』

車椅子を降りて病室備え付けのベンチに向かい合って座る。

『顔色少し良くなったんじゃない?』
『でしょ?貧血の数値も少し良くなったって先生言ってた』
『良かったね』
『さっチンはどう?』
『今日は大丈夫‼』

マカロンをバックから出して差し出すと
スイーツ好きな彼女が喜んでくれた。

一緒に食べながら沢山話した。
ここ数日の事。
体調の事。

彼女の様子も気になっていたから
元気に笑ってくれた時は本当に安心した。

彼女は、先生からの提案で大学病院で
ここでは出来ない治療をしてみる事にしたらしい。
一時外出で大学病院に行って
治療が終わればまたこの病院に戻るといった具合に。

その治療をこの間はじめて受けに行ったのだそう。

オペ出来ない位に大きくなった癌に
直接何らかの治療が出来るようだけど
それが激痛らしくて、とても凹んだと言って笑う。

それでご飯が食べられなかった日があったのか‥。
想像しながらも彼女の話を聞いていた。

また、その治療に行くらしく気が重いよと言いながらも
消して逃げ出さない彼女。

やっぱり強いなぁー君は。

わたしが同じ立場なら、どうだろう‥。



『実家療養もそろそろ引き上げようかと思って』
『帰って来たら病院まで近くなるね
毎日遊びに来てくれていいよw』

さすがに毎日は無理だけど
戻ってくれば確かにいつでも来れる。

それで彼女も心強いなら、出来るだけ顔を出そう。

『ママ、待ってるから今日は帰るよ』
1時間はあっという間。
『そっか‼今日はありがとね』
『うん!楽しかったしまた来るから』

さっチンはコンビニに行くついでにロビーまで送ると
わたしの車椅子を押してくれた。

ロビーでママが本を読みながら待っていてくれて
わたし達を見付けると手を振った。

『お久しぶりです』とさっチンがママに声をかけると
『嘛璃と話して疲れたんじゃない?w』とママが笑う。
『全然ーw長い時間すいませんでした』
『とんでもない‼これからも仲良くしてあげてね』
『こちらこそです』
『退院したら、嘛璃と一緒に遊びに来てね』
『絶対行きます‼』
3人で話すのも楽しい。
彼女は母親を少し前に亡くしたらしい。

不安も沢山あるだろう。

人はひとりじゃ生きていけないって言うけど
寄り添ってくれる人が必要な時にはそこにいて
失ったものを補ったりしながら
支え合っていければ何とかなるんじゃないのかな。

それが完璧じゃなくても。

大袈裟じゃなく自分に出来る事で。

もし、10年振りに偶然会ったわたし達が
その運命にあるのなら、これからも寄り添って行こう。

きっと、意味があるんだって思う。